ヘンチキ深堀 - 名前の由来編 -
written by Bungo Matsunaga
オーストラリアで最も知られている高級ワイン、と言われて間違いなく名が挙がるのが、今日ご紹介するヘンチキです。ペンフォールズのグランジがブレンドワインとしての最高峰だとしたら、このヘンチキが造るトップ・キュヴェ、ヒル・オブ・グレースは単一品種、単一畑の最高峰ワインといえるでしょう。ワイナリーでは、ヒル・オブ・グレースの他にも多様な品種を、エデン・ヴァレー、バロッサ・ヴァレー、アデレード・ヒルズの3生産地で栽培しています。ヘンチキの歴史は、19世紀前半における南オーストラリアのドイツ系移民の歴史と共にあり、エデン・ヴァレーのコミュニティーに深く根付いています。約150年、6世代もの長い間家族経営を貫いてきたワイナリーが造るワインには、その地域の偉人、ファミリー、地名などにトリビュート名前が付けられているものも多く、本コラムではヘンチキが造るワインの名前の由来にフォーカスして、ヘンチキを深堀していきたいと思います。
・ヒル・オブ・グレース / Hill of Grace
このオーストラリアの頂点に君臨するワインは、初めてブドウが植えられた当初は、ヘンチキファミリーの所有ではありませんでした。1860年にニコラウス・スタニツキという人物がブドウを植え、同年そこにキリスト教ルター派のGnadenbergという教会をたてました。この協会は今もこの畑の横に存在しており、このGnadenburgという名はドイツ語でいうところの「Hill of Grace」、つまりこの教会が畑の由来となっています。1891年にヘンチキ家がこの畑を一度所有、その後スタニツキ家へ所有が移るなどの紆余曲折を経て、1951年には再びヘンチキ家がヒル・オブ・グレースを所有。1958年、マウント・エーデルストーンの国際的な成功に続き、単一畑のワインとしてリリースされました。
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・マウント・エーデルストーン / Mount Edelstone
1912年にアンガス家によってブドウ畑に開墾されたこの畑は、ヒル・オブ・グレースの隣にある単一畑です。ドイツ語のEdelstein=gem stone(宝石)の意味があります。このワインのリリースは実はヒル・オブ・グレースよりも前のこと。1952年、アンガス家からヘンチキ家に委託される形でこの畑の名前を冠した初のシングルヴィンヤードワインが造られました。その後1956ヴィンテージが国内のワインコンクールで賞を受賞したことをきっかけにこのワインの名が広く知られ、1974年にはヘンチキ家がこの畑の所有し、今ではオーストラリアでも屈指のシラーズとして名声を得ています。畑には開墾当時から続く樹齢100年以上の接ぎ木されていない古樹が植わっています。
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・ケイントン・ユーフォニウム / Keyneton Euphonium
このワインの由来は、2代目のポール・ゴタルド・ヘンチキまで遡ります。ポールはヒル・オブ・グレースの畑を購入するなど、ワイナリーが今日の発展をするまでの礎を築いた人物ですが、地域のコミュニティーにも積極的に参画する人物でした。そしてGnadenberg教会のオルガン奏者でもあった彼は、Henschke Family Brass Bandという楽団を結成しました。その際の楽器はドイツのツィマーマン(現在ではヨーロッパ屈指のピアノメーカーとして知られています)から輸入しており、その時取り寄せたユーフォニウム、コルネットにクラリネットは、今もヘンチキ家に保管されています。
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・シリル・ヘンチキ・カベルネ・ソーヴィニヨン
このワインはワイナリーの4代目、シリル・アルフレッド・ヘンチキに捧げられたワインです。シリルはヒル・オブ・グレース、マウント・エーデルストーンを国際的に名のある地位まで押し上げワイナリーの名声を確立したほか、品種にフォーカスしたヴァラエタルワインもリリースするなど、今日の名声やヘンチキのレパートリーに大きく貢献した人物でした。シリルは1960年代にエデン・ヴァレーにカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロを植えており、それに敬意を表してカベルネ・ソーヴィニヨン主体のワインを造っています。
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・ジュリウス・リースリング
ヘンチキ家の2代目、ポール・ガタールド・ヘンチキの息子であるジュリウス・アルバート・ヘンチキから名をとっています。この人物は石工として南オーストラリアの数々の教会や庁舎を手掛けてきた人物で、Hill of Graceの畑に立つ教会、Gnadenbergの墓園のデザインも施しています。彼の代表作に、アデレードにある第一次世界大戦の犠牲者を弔った戦争記念碑があり、また、ユーフォニウム奏者でもあったそうです。
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・ヘンリーズ・セヴン
ヘンチキが位置するケイントンの町に、初めてブドウを植樹したヘンリー・エヴァンスへのトリビュートです。その最初の畑が7haだったので、ヘンリーズ・セブンはまさに、最初に植えられた畑そのものを指しています。ワインはシラーズをベースにグルナッシュやヴィオニエなどを混醸。1853年のケイントン開拓当時のフランスおよびスペイン系の品種を再現したものです。
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参考文献:
https://www.jancisrobinson.com/articles/henschke-keyneton-euphonium-2015-barossa